山下自治体法務クリニック法律事務所

法務の雑記帳

第4回 いわゆる「第三者委員会」について考える―附属機関条例主義との関係を中心として―

はじめに

 国や自治体には要綱等に基づいて設置され、法令または条例に根拠を有しない「第三者委員会」、「私的懇談会」、「私的諮問機関」等(以下「第三者委員会等」といいます)が数多く存在しています(注1)。このうち自治体が設置する「第三者委員会等」については、地方自治法第138条の43項及び同法202条の31項(注2)が規定する(以下「法2カ条」といいます)「附属機関」に該当し違法であるとの見解があります。この見解によれば、「第三者委員会等」の多くが違法とされることになります。

しかし、後述のとおり、上述の見解のような議会による民主的統制を強調した附属機関条例設置主義の厳格な適用は、長の合理的な組織編成権限に対する不当な介入につながりかねないという問題があります。そこで本稿では、この問題について考えてみることにします。

 

(注1)後述のとおり「令和4年に都道府県及び政令都市の合計67の地方自治体について実施した調査によれば、約97%の地方自治体において法律又は条例に根拠を有しないと考えられる附属機関が設置されていた」ということです。なお、本稿では民間企業等の「第三者委員会」は検討の対象にはしていません。

(注2)条文は以下の通りです。地方自治法第138条の43項「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。ただし、政令で定める執行機関については、この限りでない。」、同法202条の31項「普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこれに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関とする。」。

 

下級審裁判例の解釈及び行政実務の解釈

平成10年頃から、「第三者委員会等」は附属機関条例主義に違反するとして、その委員への報酬や報償費の支出を違法とする住民訴訟が提起され、公刊物等で確認した限りこれまで20件余の判決が出ています(注3)。

裁判例の中には、「法2カ条」の文言に依拠して、附属機関を「執行機関の行う行政の執行のため、又は行政執行に伴い、必要な調停、審査、審議又は調査等を行うことを職務とする機関」と定義した上、「調停、審査、審議又は調査等」の文言を重視して、附属機関を広く解釈するものがあります(注4)。本稿では、これらの裁判例のように「審査」、「諮問」、「調査」といった作用の文理解釈に基づき、それを行う機関を広く「附属機関」と捉える見解を総称して「広義説」ということにします。そうすると、これらの「広義説」に立つ裁判例の「附属機関」の定義・解釈によれば―どの「第三者委員会等」でも少なくとも事案の「調査」はするでしょうから―「第三者委員会等」は、ほぼ全て「附属機関」に該当することになり、本条違反で違法であるということになるでしょう。

他方、上記裁判例とは異なり、「附属機関」の範囲を限定する裁判例もあり、これらの裁判例によれば、「附属機関」に該当しない「第三者委員会等」もあり得ることになります(注5)。

 ところで、総務省(旧自治省)関係者による行政実務解釈では、「附属機関」とは「執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い必要な調停、審査、諮問又は調査を行うことを職務とする機関であり、執行権を有しないものである」(注6)と定義し、「執行機関の補助職員以外の外部のものも委員あるいは構成員として加わるとき」は、すべて条例で定めるべき附属機関になる、という解釈をしています。この解釈によれば、「広義説」と同様、「第三者委員会等」は、ほぼ全て「附属機関」に該当することになり、本条違反で違法であるということになりそうです。

しかし、行政実務解釈は、「要綱等によって、・・・外部のものも委員あるいは構成員として加わる委員会、協議会等を設置している例が少なくないが、こうしたものは『機関』とは区別して、行政運営上の意見聴取、情報や政策等に関して助言を求める場として設けられるもので、第三項〔=地方自治法第138条の4第3項〕に違反するものではないとみられる」(注7)という解釈も示しています。そうすると、行政実務解釈は、「附属機関」に該当しない「第三者委員会等」を認める立場であり、その意味で「附属機関」の範囲を限定する立場であるので、「広義説」には入らないと考えられます(以下、「附属機関」の範囲を限定する立場を総称して「限定説」ということにします)。

 

(注3)確認できた下級審裁判例として、名古屋地判平10.10.30、さいたま地判平14.1.30、福岡地判平14 .9 .24、松江地判平25 .8 .5、大阪地判平29 .1 .13、名古屋地判令5.3.27、名古屋高判令5.12.20など今日まで22件(請求認容8件、棄却14件)があります。

(注4)名古屋地判平10.10.30、さいたま地判平14.1.30、福岡地判平14 .9.24、岡山地判平20. 10. 30、広島高岡山支判平21. 6. 4、横浜地判平23. 3. 23、名古屋高判令5.12.20など。

(注5)松江地判平25.8.5、名古屋地判令5.3.27

(注6)例えば、佐藤文俊・逐条地方自治法454頁。

(注7)佐藤・同書457頁。

 

行政法学説の解釈

 ところで、行政法学説での「附属機関」の範囲に関する見解ですが、これには様々なものがあり、定説を見ません。

一例を挙げれば、「附属機関」を自治紛争処理委員のような独任制の機関を除き、厳格な意味での合議制機関のみを指すと解釈する見解があり、この見解によれば、単に意見を個別に聴取するヒアリングに留まる会合や、職員と外部有識者等との勉強会、あるいは「会」としての結論を出さない研究会などは、附属機関には当たらないとされます(注8)。また、二重の基準により「附属機関」を定義した上で、「附属機関」を二つの基準のいずれかを満たすものに限定する見解もあります(注9)。

上記のとおり「附属機関」の範囲について行政法学説における通説といえるものはないといえる状況です。しかし、大多数の学説は「広義説」とは異なり、程度の差はあれ「附属機関」の範囲を限定する考え方、すなわち「限定説」をとっていると考えられます(注10)。「限定説」の理由とするところは、概ね、地方自治体において長(執行機関)は住民の直接選挙によって選任されており、議会と同様民主主義的正当性を有している(二元代表制)。したがって議会による民主的統制を強調した附属機関条例設置主義の厳格な適用は、長の合理的な組織編成権限に対する不当な介入につながりかねない、というところにあります。

 

(注8)稲葉馨「自治組織権と附属機関条例主義」『行政法の発展と変革(下)(塩野先生古稀)』333頁以下。

(注9)碓井光明「地方公共団体の附属機関等に関する若干の考察(上・下)」自治研究821153頁以下、同1222頁以下。

(注10)稲葉・前掲、碓井・前掲、中川丈久「地方自治法における附属機関の法定主義の意義と射程(1・2完)」自治研究9411号3頁以下、12号3頁以下、高橋正人「附属機関(設置)条例主義と判例・学説」静岡大学法政研究26巻2・3・4号174頁以下、榊原秀訓「附属機関条例主義と住民訴訟」南山法学47 1 号(2023 年)149頁以下等。なお、塩野宏『行政法〔第5版〕』225頁は「〔条例外審議会〕を自治法に反する違法の組織とみることはできないと考えられる」として、明確に限定説をとっています。

 

下級審裁判例の分析

前述のとおり、附属機関条例主義違反を理由とする住民訴訟は多数提起され、たしかにこれまで多くの裁判例は、附属機関該当性につき前述の「広義説」をとっています。しかし、「限定説」に立つ裁判例もあり、そのうち1件は直近(名古屋地判令5.3.27)のものです。加えて、より重要な点ですが、最高裁判所の判断は未だ示されていないのです。そうすると、とうてい附属機関の解釈について確立した判例理論が形成されているということはできないと思います。

 また、近年の「広義説」に立つ裁判例では、「第三者委員会等」を「附属機関」に該当するとし、その設置を違法と判断しつつも、長の過失を否定し、結局、損害賠償請求の訴え(注11)を棄却するものが多数です(注12)。そして、その過失の判断についても、「附属機関条例主義の解釈については相互に異なる理解をする判例,学説が入り乱れており…これについての最高裁判例は存在しない」、「県が令和4年に都道府県及び政令都市の合計67の地方自治体について実施した調査によれば、約97%の地方自治体において法律又は条例に根拠を有しないと考えられる附属機関が設置されていた」、「県は迅速に事態の収集に向けて対処する必要に迫られていたのであって,附属機関該当性及びその設置根拠について熟考を重ねる時間的な余裕はなかったものと認められる」ことを理由に長の過失なしとする裁判例があります(注13)。

 これらの裁判例のような理由で長の過失が否定される(すなわち、長の責任が否定される)のであれば、最高裁の判断が示されない限り、ほぼ常に長の過失は否定されることになるでしょう。そうすると、この種の裁判例は要するに、「附属機関」の設置につき長は責任を問われないと言っているわけですから、「広義説」立つ裁判例も、少なくとも近時のものは、結果的には「限定説」に立つ裁判例とかわらないと考えられます。

そこで「限定説」に立つ裁判例ですが、その一つである松江地判平25.8.5は、昭和27年地方自治法改正の趣旨(濫設防止と民主的統制)を認めつつも、その制約は限定的であるべきとし、「濫設置に当たらず、かつ、議会による民主統制の必要のない機関であれば、首長の合理的な組織編成権限に委ねられている」と解釈しました。この判決は、附属機関の判断基準として、恒常的か否か(形式的要素)と、民意を反映させる実質があるか否か(実質的要素)を総合的に判断しています。そして、この判断基準により、問題となった懇話会や検討会は臨時的・一時的なもので、かつ民意を反映させる実質を有することから、長の組織編成権限に委ねられているとして、附属機関該当性を否定しています。

同じく「限定説」に立つ裁判例の一つである名古屋地判令5.3.27は、①当該機関が担当する職務内容が、地方公共団体の意思決定における情報収集の一環と位置付けられるものか、②これを超えて、地方公共団体の意思決定過程に公式に組み込まれたものか、③当該機関が構成員の意見やその単なる集積にとどまらない機関としての意思を表明するものか、という観点から「附属機関」該当性を判断するのが相当であるとしています。そして、本判決は、このような観点から、「第三者委員会等」に該当する「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会・検討委員会」を、本件各委員会は委員が交代しながら同一性を保って継続的に活動する組織ではないこと、提言が委員会として決定した一つの意見ではなく委員の意見の集積にとどまること、活動が幅広い情報・知見の収集にあり行政執行の一部を構成しないことなどから、「附属機関」には該当せず、適法と判断しています。

 

(注11)地方自治法242条の21項第4号に基づく、いわゆる4号請求。

(注12)大阪高判平25.11.7(本判決は、原告の請求を認容した奈良地判平25.6.25を取消して請求を棄却、同様に第1審の認容判決を取消して原告の請求を棄却したものとして大阪高判平26.8.28)、大阪地判平26.9.3、大阪高判平27.6.25、大阪地判平29.1.13、名古屋高判令5.12.20

(注13)名古屋高判令5.12.20

 

どう考えるべきか

以上見てきたように、「第三者委員会等」と附属機関条例主義との関係については、裁判例・学説ともに必ずしも統一した理解が確立しているとはいえません。他方で、国の行政においても外部有識者による「第三者委員会等」が広く設置されていますが、住民訴訟に相当する制度がないため、その適法性が司法の場で問題とされることはほとんど想定されていません。国と地方自治体の第三者委員会の性質に本質的な差があるとは考えにくいことを踏まえると、自治体においてのみこれを広く違法と解することには、やや違和感を覚えるところです。

附属機関条例主義の趣旨を踏まえる必要はもちろんありますが、その適用を過度に形式的に拡張することは、地方自治体の行政運営の実情とも必ずしも整合しないように思われます。少なくとも現時点では、「第三者委員会等」については、その具体的な機能や位置付けを踏まえつつ、附属機関該当性を限定的に解し、その適法性を相当広く認める方向で理解するのが実務にも適合するのではないでしょうか。

 

おわりに

 以上、簡単ではありますが、自治体等が設置する「第三者委員会等」について附属機関条例主義との関係を中心に検討してきました。小稿が、当該問題の対応につき悩んでおられる自治体等の実務担当者の方や法曹実務家の方の何らかの参考になれば幸いです。なお、小稿は、学術論文の類いではなく、あくまで個人的な研究ノートもどきの雑記・雑文です。したがって、もとより論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。そういう性質のものですので、小稿に対する質問・意見・批判などには対応できませんのでご了承いただきますようお願いします。

第3回 諭旨免職について考える

諭旨免職について考える

はじめに
 公務員が懲戒処分、特に懲戒免職処分に該当するような重大な非違行為を行った場合、当該公務員の個別的事情等―例えば本人の過去の勤務成績が優良であったとか非違行為を行ったことを真摯に反省しているなどの事情―を考慮して、公務員が自ら辞職する形をとって懲戒処分に替えることがあります。これがいわゆる諭旨免職という措置です。この措置については、懲戒処分との関係や法的性質、地方公務員法49条等の適用の有無、当該措置の適法要件等色々な問題があります。
 今回は、主として自治体の公務員の諭旨免職を念頭において、これらの問題について考えることにします。なお、諭旨免職は民間企業でも問題になりますが、公務員の場合とはかなり異なるところがあり、本稿では取り上げないことをお断りしておきます。

諭旨免職と懲戒処分との関係-諭旨免職の法的性質
 諭旨免職という措置は懲戒処分の一種のようにみえますが、地方公務員法29条は、戒告、減給、停職、免職のみを懲戒処分と定めていますので、懲戒処分の一種ではありません。それでは、諭旨免職の法的性質はどのように理解すれば良いのでしょうか。
 これについては-国家公務員に関するものですが-内閣が見解を示しており、参考になります(注1)。この見解によれば「いわゆる諭旨免職とは、一般に、重大な非違行為を行った職員を諭し、当該職員に辞職の申出を求めこれを承認するという一連の行為をいうものであり、国家公務員法・・・及び人事院規則に規定されている用語ではなく、国家公務員制度上は、人事院規則8-12(職員の任免)第73条の規定による職員からの申出による辞職の承認に分類されるものである」とされています。つまりは、辞職勧告(辞職の申出の求め)をうけての辞職申出に対する承認処分(行政処分の一類型)ということで、この点、判例も同様の見解と考えられます(注2)。本稿もこの見解を前提として検討を進めることにします。

(注1)長妻昭衆議院議員の内閣への質問書に対する平成17年7月17日付の内閣の答弁第九六号。
(注2)横浜地判昭58.9.28 (判例地方自治3号39頁)、神戸地判平6.9.28(判例地方自治135号50頁)、福岡地判平8.10.23(判例タイムズ951号174頁)、前橋地判平14.6.12(TKC 文献番号28072401)、前橋地判平16.11.26(判例タイムズ951号174頁)など。
諭旨免職と地方公務員法49条、同51条の2の適用
 諭旨免職が辞職承認処分であるとして、それでは諭旨免職(=辞職承認処分)に地方公務員法(以下「法」といいます)49条や法51条の2の適用はあるのでしょうか。これらの規定は、それぞれ処分事由説明書の交付義務や審査請求前置に関わるものなのでその適用如何は実務上重要な問題といえるでしょう。
 諭旨免職にこれらの規定が適用されるかは、結局のところ諭旨免職が法49条1項のいう「不利益処分」(以下括弧付の「不利益処分」はこの意味で用います)に該当するかという問題に帰着します。この点について、前掲福岡地判平8.10.23は次のように判示しています。
 「職員の辞職の申出すなわち同意の下に行われる辞職承認処分は『その意に反する』ものであるとはいえないから、原則として、右不利益処分〔(著者注)法49条1項の不利益処分をいう〕には該当しないものというべきである。」「しかしながら、職員が詐欺や強迫等によって辞職の申出をした場合等、職員の辞職の申出が真意に基づくものではないと認められる場合には、右のような職員の辞職の申出を前提とした辞職承認処分は、結局、職員の意に反する離職という効果を生じるのであるから、地方公務員法49条1項にいう不利益処分に該当すると解するのが相当である。」「本件において、原告は、本件処分の前提となった本件辞職願の提出は、原告の真意に反するものであると主張しているのであるから、辞職の申出があるということから直ちに不利益処分ではないということはできず、本件処分は、取消訴訟の対象となるというべきである」(傍点筆者)。
 以上の判示を要約すると、①辞職承認処分は原則として法49条1項の「不利益処分」には該当しない、②職員の辞職の申出が真意に基づくものではないと認められる場合には「不利益処分」に該当する、③原告(=公務員)が自分の真意に反していると主張すれば「不利益処分」として取消訴訟の対象となる、ということになるでしょう。このうち②の職員の辞職の申出が真意に基づくかどうかは、客観的には、実体審理をしないと分からないはずですから、この点は、取消訴訟の対象となる「不利益処分」の判断と区別しているものと思われます(注3)。このような判決の理解を踏まえて、諭旨免職についての法49条や法51条の2の適用はどのようになるか考えます。
 まず、法49条1項の任免権者の説明書交付義務についてです。諭旨免職(=辞職承認処分)は原則として法49条1項の「不利益処分」には該当しないとすると、公務員が辞職の申出を自分の真意に反していると主張しないかぎり、任命権者は同項による説明書交付義務を負わないと解されます(注4)。もっとも同条の説明書交付義務とは別に、任命権者は諭旨免職にあたって一定の事前手続を践む必要があると考えられますが、この点については後述します。
 次に法51条の2のいわゆる審査請求前置を定める規定についてです。結論からいえば、この規定は諭旨免職にも適用されると考えられます(注5)。なぜならば、本条の適用が問題になるのは、辞職の申出をした公務員が、諭旨免職を法的に争う場面だからです。このような場面では、通常当該公務員は、その申出は真意に基づくものではないと主張することになるわけですから、諭旨免職を「不利益処分」と解することができます。また、この場合に審査請求前置を除外する実質的な理由もないと考えられます。
(注3)この判決は、実体審理をした上、「原告の本件辞職願の提出は、原告の意思に基づくものというべきである」として任命権者がした辞職承認処分を適法として、当該処分取消の訴えを棄却しています。
(注4)このように解しても、辞職の申出をした公務員は法49条2項により説明書交付請求ができるので、手続上の不利益は受けないと考えられます。
(注5)このことを認めた判決として、前掲前橋地判平16.11.26があります。なお当然のことながら、この場合も行政事件訴訟法8条2項3号(正当な理由)が適用されます。
諭旨免職の適法要件
 以上検討してきたように、諭旨免職は、職員からの申出による(辞職申出を要件とする)辞職承認処分と解されます。そして前掲福岡地判平8.10.23の判示によれば、諭旨免職が適法であるためには、職員からの辞職申出が「真意に基づく」ものでなければなりません。ところで、諭旨免職の場合の職員からの辞職申出は、通常、説諭つまり辞職勧告をうけてなされるものですから、職員の全くの自発的意思による辞職申出ということはできません。そこで問題になるのは、辞職勧告(による影響ないし制約)があるにもかかわらず「真意に基づく」辞職申出と認められるのはどういう場合かということになります。
 この問題について、裁判例では辞職勧告の内容やこれがなされた状況等を総合的に考慮した上で判断しているようです。以下裁判例を検討することにします。
 まず、前掲神戸地判平6.9.28ですが、次のように判示しています。
 「辞職願は、退職承認の要件である退職の申出を内容とする公法上の意思表示であると解すべきである。そして、退職の申出が公法上の意思表示であるとしても、退職は公務員の身分にかかわる重要な事項であり、特に本人の意思が尊重されるべき性質のものであることからすれば、強迫等により、全く意思の自由を奪われた状態のもとで退職の申出の意思表示がされたのであれば、当該意思表示は、効力を有しないものと解するのが相当である」。
 上記判示のように「強迫等により、全く意思の自由を奪われた状態」での意思表示が無効であることは当然として、その状態に至らない場合でも、任命権者等による辞職の勧告が社会通念からみて違法な強制・強要に該当するものであり、当該勧告により辞職の申出がなされた場合には「真意に基づく」辞職の申出とはいえないでしょう。そうすると、このような諭旨免職は違法だと解するのが妥当でしょう。
 具体的な辞職勧告が強制・強要に当たるかは、一般論でいえば、個別具体的に判断することになりますが、諭旨免職が懲戒処分、特に懲戒免職処分の緩和的・代替的措置であることを考慮すると、辞職勧告において自主退職しなければ懲戒処分がなされるうることを示しただけでは強制・強要にはならないでしょう(注6)。もっとも、このようなことを示す以上、懲戒事由に相当する事実が存在していなければならないのは当然です。もし、このような事実が存在していないにもかかわらず懲戒処分がなされるうることを示して辞職勧告をし、当該勧告により辞職の申出がなされたような場合には「真意に基づく」辞職の申出とはいえないと考えられます。
 上記のとおり、諭旨免職が適法であるためには辞職勧告が強制・強要でないことが必要ですが、前掲前橋地判平14.6.12は、次のような理由を挙げて、それだけでは不十分だと判示しています。すなわち、辞職勧告が強制・強要に当たらないとしても、職員は「勧告に従うか否かに関する・・・意思決定の自由が事実上制約される面があったことは否定できない」そして「こうした勧告は公務員の地位喪失に繋がる重大な措置であるから,勧告に至るまでの過程において,問題となった行為の内容等の諸事情が慎重に考慮されるよう合理的な手続を履践することが要請されるというべきである」としています。
 以上、これまでの裁判例を踏まえれば、次のようなことがいえるかと思います。すなわち、諭旨免職が適法であるためには、職員からの辞職申出が「真意に基づく」ものでなければならない。辞職勧告をうけて辞職申出がなされた場合、それが強制・強要に当たるなど違法・不当なものである場合、または、辞職勧告を行うに当たり合理的な手続を履践していない場合には、職員からの辞職申出が「真意に基づく」ものとはいえない(したがってこのような諭旨免職は違法)、ということです。
(注6)前掲前橋地判平14.6.12は「懲戒免職処分に伴う不利益を避けるため」としてなされた自主退職勧告であっても、それだけでは違法な強制・強要に該当するとはいえないと判示しています。
おわりに
 以上、簡単ではありますが、諭旨免職をめぐる法的問題について検討してきました。小稿が、諭旨免職の取扱いにつき悩んでおられる自治体等の実務担当者の方や法曹実務家の方の何らかの参考になれば幸いです。なお、小稿は、学術論文の類いではなく、あくまで個人的な研究ノートもどきの雑記・雑文です。したがって、もとより論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。そういう性質のものですので、小稿に対する質問・意見・批判などには対応できませんのでご了承いただきますようお願いします。

第2回 行政上の措置の処分性について考える-高齢者虐待防止法13条に基づく面会を制限する措置の処分性

行政上の措置の処分性について考える-高齢者虐待防止法13条に基づく面会を制限する措置の処分性

はじめに
 行政法の基本問題の一つに処分性の問題があります。すなわち、ある行政上の措置が行政事件訴訟法3条2項の行政処分に当たるかどうかという問題です。これは、司法試験などでしばしば出題される重要な理論的問題であり、大いに受験生の頭を悩ませ(?)ています。が、実は自治体等の実務担当者の頭を悩ませる問題でもあります。もし当該措置が行政処分に当たるならば、当該措置には行政不服審査法、行政事件訴訟法、行政手続法等の適用が問題になり、当たらなければ適用は問題にならず、いずれにせよ行政はこの問題に対処しなければならないからです。
 処分性が問題になる行政上の措置は山ほどありますが、今回は、自治体によって取扱いがバラバラな「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」といいます)13条(注1)に基づく面会を制限する措置(以下「本件措置」といいます)を取り上げて、上記問題について考えることにします。

(注1)同条は次のように規定しています。
 「養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第11条第1項第2号又は第3号の措置が採られた場合においては、市町村長又は当該措置に係る養介護施設の長は、養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護の観点から、当該養護者による高齢者虐待を行った養護者について当該高齢者との面会を制限することができる。」

本件措置は行政処分か
 処分性に関する判例を整理すると(注2)、行政処分(処分性)とは①公権力性が認められ、②私人の法律上の地位に対して個別的・具体的効果を及ぼすものである、とまとめることができます。また、近時の判例では処分性の判断に当たっては実効的な権利救済の観点も考慮するとしています(注3)。
 これを本件措置に当てはめれば、まず、本件措置は、法律に基づき一方的になされるものなので公権力性が認められます。次に、養護者は相手(高齢者)の同意を前提として面会などの交流をする法的利益を有すると考えられるので、本件措置がなされると当該法的利益が侵害されることになります。この点、高齢者も同様で、当該措置がなされると法的利益が侵害されることになります。加えて、本件措置を処分と解しなければその違法性を争う手段がなく、実効的な権利救済が困難になります。そうすると、本件措置は行政処分と解するのが妥当であると思います(注4)。
 ところで、本件措置は、行政処分ではありますが、「(面会)禁止処分」ではなく、法令に基づく立入検査や行政代執行等と同様、いわゆる「権力的事実行為」と解されます。その理由は次のとおりです。
 解釈論上、禁止(処分)は名宛人に「不作為義務」を課す行政処分をいいます(例えば、営業停止処分等)。そして不作為義務違反には、通例、履行を担保する手段として罰則(秩序罰ないし刑罰)が設けられています。しかし、法13条の面会制限にはその違反に対し罰則その他義務違反に対する制裁や強制執行等の手段は用意されていません。そうすると、法13条の面会制限をもって養護者や高齢者に不作為義務を課す禁止(処分)と解するのは困難かと思います。
 その一方で、法13条の面会制限がなされますと、施設長は、養護者や高齢者に対し、単に施設管理権に基づく面会制限ではなく、法に基づく面会制限をすることができます。この場合、面会制限は法13条に基づく一方的なものですので公権力性を有していることになりますが、誰かに義務を課すものではなく、事実として面会させないだけです。そうすると、面会制限の法的性質は公権力性を有する「事実上の行為」と解するのが妥当ではないかと思います。

(注2) 処分性判断のリーディングケースとされる最判昭39.10.29(民集18巻8号1809頁)は次のように判示しています。すなわち「行政庁の処分とは…行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」。
(注3)この点を明示する判決として最判平20.9.10(民集62巻8号2029頁)などがあります。
(注4)高齢者虐待防止法13条に基づく面会を制限する措置を行政処分であるとした判決として宮崎地判平26.12.3(LEX/DB 文献番号25540937)などがあります。

本件措置の名宛人
 本件措置(=行政処分)の名宛人については、高齢者を名宛人とする考え方と養護者(法13条の「高齢者虐待を行った養護者」)とする考え方があります。私は後者の考え方が妥当ではないかと思っています。
 その理由ですが、法13条の面会制限は、「当該養護者による高齢者虐待を行った養護者」について「面会を制限することができる」と規定して、特定人を対象として面会を制限するという形になっていますので、面会制限の名宛人は「当該養護者による高齢者虐待を行った養護者」と読むのが条文の素直な読み方ではないかと考えるからです。
 もっとも以下に述べるように、名宛人が誰かという問題は、本件措置の取消訴訟の原告適格の問題や行政手続法の適用の問題にも実質的に影響しませんので、それほど重要な問題ではないように思います。

本件措置の取消訴訟の原告適格
 本件措置を行政処分と解すると、これを争う手段として審査請求や取消訴訟等(注5)が考えられますが、これらの争訟手段を利用しようとすれば、審査請求適格や原告適格の有無が問題になります。ところで、審査請求適格の有無は原告適格に準じますから(注6)、以下では、原告適格について考えてみることにしましょう。
 行政事件訴訟法9条1項は「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え・・・は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者・・・に限り、提起することができる」と規定し、取消訴訟の原告適格を「法律上の利益を有する者」に限定しています。そして判例は、「『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう」と定式化しています(注7)。この定式から「当該処分により自己の権利」が侵害される者は、「法律上保護された利益」の侵害を論じるまでもなく原告適格が認められることになります。
 この定式によれば、本件措置の名宛人を高齢者とするか養護者と理解するかにかかわらず、両者とも原告適格が認められることになります。なぜなら、養護者は相手(高齢者)の同意を前提として面会などの交流をする法的利益を有すると考えられるところ、本件措置(面会制限)により当該法的利益が直接侵害されることになり、本件措置の取消訴訟の原告適格を有することになるからです。また、この理は高齢者についても同様に当てはまるので高齢者も原告適格を有することになるからです。

(注5)本件措置については、当該措置がなされる前に「差止めの 訴え」を提起することも理論上は考えられます。しかし、現実的にこのような訴訟が提起されるとは考えにくいので、ここでは当該措置がなされた後の「取消訴訟」についてのみ検討することにします。
(注6)行政処分につき審査請求できるのは、「行政庁の処分に不服がある者」(行政不服審査法2条)ですが、判例は、これを「法律上の利益を有する者」とし、この解釈は原告適格の解釈と同様だとしています(最判昭53.3.14(民集32巻2号211頁))。
(注7)最判平4.10.29(民集46巻7号1174頁)。この判決の原告適格の定式には「法律上保護された利益」の判断基準に関する続きがあります。すなわち、「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の原告適格を有するものというべきである」と。この続きの部分は原告適格の判断については非常に重要なものですが、今回のテーマには関係が薄いので割愛します。

本件措置は不利益処分か、また、行政手続法の適用はどのようになるか
 上記のように本件措置の名宛人を養護者と解する場合、養護者は本件措置によって面会などの交流をする法的利益(ただし高齢者の同意を前提)を侵害されることになりますので、一種の不利益処分と考えられます。他方、本件措置の名宛人を高齢者と解する場合、本件措置は高齢者にとって利益処分の側面(高齢者の保護)と不利益処分の側面(面会交流の法的利益を侵害)を有する複合的な処分ということになると思います。
 そうすると、本件措置の名宛人をどのように解するかにより、本件措置は不利益処分、あるいは複合的な処分と性格付けられることになります。しかし、行政手続法の適用に関していえば、どちらの理解に立っても「不利益処分」に関する規定の適用はないものと考えられます。その理由は次のとおりです。
 行政手続法は第2条第4号柱書で「不利益処分」を定義していますが、その定義に該当するものであっても「事実上の行為」は「不利益処分」から除外しています(同号イ)。ところで、本件措置は不利益処分と解するにしても複合的処分と解するにしても、前述したように、事実上の行為(である行政処分)であることに変わりはありません。したがって、本件措置は、不利益処分の一種であるとしても、行政手続法が適用される「不利益処分」ではないと考えられます(注9)。

(注9)なお、本件措置は行政手続法が適用される「不利益処分」ではないとしても行政処分ではありますから、本件措置の名宛人(上記のとおり誰が名宛人かについては考え方が分かれます)に対して行政不服申立てや行政訴訟の教示(行政不服審査法82条、行政事件訴訟法46条)は必要であると考えられます。

おわりに
 以上、簡単ではありますが、高齢者虐待防止法13条に基づく面会を制限する措置の法的性質とその取扱いについて検討してきました。小稿が、行政上の措置の取扱いにつき悩んでおられる自治体等の実務担当者の方や法曹実務家の方の何らかの参考になれば幸いです。なお、小稿は、学術論文の類いではなく、あくまで個人的な研究ノートもどきの雑記・雑文です。したがって、もとより論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。そういう性質のものですので、小稿に対する質問・意見・批判などには対応できませんのでご了承いただきますようお願いします。

第1回 理由提示について考える

はじめに
 処分庁が営業許可申請に対する不許可処分や営業停止処分・営業取消処分などの不利益処分をするときには、行政手続法等(注1)の定めによって、原則として、処分の相手方に当該処分をした理由を示す必要があります(理由提示)(注2)。理由提示は重要な行政手続の一つとされていますので、これを欠く場合、または、行政手続法等の要求を充たさない不十分なものである場合、当該処分の取消事由になると解されています(注3)。ところが、行政実務をみてみると、理由提示に処分の根拠条文しか示していないなど、理由提示の記載が不十分で行政手続法等の要求を充たさないものが少なくありません。どうしてこういう事態が生じるのでしょうか。

 その理由は―あくまで私見ですが―処分庁が理由提示を重視しておらず、そのため理由提示の重要性が十分に理解されていないからではないでしょうか。処分庁は、通常の場合、事前に処分の相手方と接触することなく不利益処分や申請拒否処分をすることはまず考えられません。処分庁は、不利益処分をする場合には聴聞手続や弁明手続をとっているはずですし、申請拒否処分の場合にも当該処分に至る過程で処分の相手方から聴き取りをし、あるいは処分について説明をするなど、相手方へ当該処分に関してそれ相当の情報提供などをしているはずです。こういう事情から処分庁は、相手方は処分を受ける実質的な理由は分かっているはずだと考え、理由提示は形式的なものに過ぎないと理解しているのではないかと想像されます。

 しかし、前述のとおり、理由提示はそれ自体が重要な行政手続の一つとされており、決して形式的なものではありません。もし処分庁の理由提示についての認識が前述のようなものだとすれば改める必要があるでしょう。そういうことで、今回は、処分の理由提示を掘り下げて考えてみることにします。

 
(注1) ここでは、行政手続法および個別法で行政手続を定めてい る法令を意味します。

(注2) 行政手続法8条、同法14条。理由提示は、法律上口頭ですることも想定されていますが、通常、処分書に付記する形がとられ、これを「理由付記」といいます。

(注3) この点については行政手続法制定の前後を問わず判例は一貫しています。例えば、最判昭371226、最判昭38531、最判昭60122、最判平41210、最判平2367など。

 理由提示の内容・程度について
 おそらく理由提示についての一番の問題は、行政手続法等の要求を充たすためには処分理由として何をどのくらい書けばよいのかという問題、つまり理由提示の内容・程度の問題だと思います。この問題に言及している判例はたくさんありますが、ここでは、適宜、重要と思われる判例を参照して理由提示の内容・程度等について考えてみることにします。
 ⑴ 一般に理由提示が求められる趣旨は、①処分の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制することと、②処分の理由を申請者〔処分の名あて人〕に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることとされています(注4)。少し詳しく言いますと、①は処分庁に処分理由をきちんと示させることによって、恣意的あるいは軽率な処分を防止するとの趣旨(恣意抑制機能=慎重配慮確保機能)、②は処分理由を処分の名あて人に通知することによって、名あて人の争訟提起に便宜を図る趣旨(争訟提起便宜機能)ということです。そして、判例は、この理由提示の趣旨から必要な理由提示の内容・程度を導くという論理を展開しています。

 ⑵ これら理由提示の趣旨から、処分理由として少なくとも、次の二つのことは記載しなければならないでしょう。すなわち、①当該処分をする基礎となった具体的な事実関係、および②その事実関係に基づき当該処分をすることの根拠となる(行政)法規です。この点を明言しているのは旅券の発給拒否処分に係る最高裁昭和60122日判決です。この判決は、理由提示は「いかなる事実関係に基づき」、「いかなる法規を適用して」処分がされたのかを「申請者においてその記載自体から了知しうるもの」でなければならないとした上で、処分の「根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の基礎となつた事実関係をも当然知りうるような場合を別として」、理由提示(理由付記)として「十分でない」としています。

 ⑶ それでは、①、②を記載さえすれば常に理由提示として十分といえるのでしょうか。実は、十分とはいえないケースがあります。具体的には建築士免許取消の懲戒処分に係る最高裁平成236月7日判決のようなケースです。この判決では、①、②の他に、③「処分基準の適用関係」をも示さなければ理由提示としては不十分だと判示しています(注5)。

 もっとも、この判決は、あらゆるケースで③の記載が必要と述べているわけではありません。本件で①、②の他に③の記載まで必要とされたのは、次のような事実があったからだと考えられます。すなわち、第1)本件では「処分基準」が定められ、かつ、公にされていたという事実です。このことにより、原則として、処分権の行使は「処分基準」に羈束されると考えられます(注6)。第2)本件「処分基準」は「多様な事例に対応すべくかなり複雑なもの」であるため「本件処分基準の適用関係が示されなければ,処分の名あて人において・・・いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難である」という事実です。要するに、当該処分について具体的に「処分基準」のどの規定を適用してなされたものか不明、ないしは(合理的な)説明が困難であるということです(だから処分庁が説明しなければならない、という理屈になるのでしょう)。

 そうすると、少なくともこの判決と同様の事実が認められるケースでは、処分庁は上記①、②に加えて、③「処分基準」の「適用関係」をも理由提示において示す必要があるといえるでしょう。

 ⑷ 以上の他に理由提示として①、②の記載だけで足りない場合はあるのでしょうか。考えられるのは、申請拒否処分における理由提示での「審査基準」の適用関係の記載です。これについての最高裁判例は見当たらないようですので、⑶で取り上げた最高裁平成236月7日判決に即して、第1)、第2)の事実の有無という観点から考えてみたいと思います。

 「審査基準」の場合は、「処分基準」と異なり、その設定・公表は行政手続法上の義務とされています(行政手続法51項)。したがって、第1)の事実はありと理解してよいので、問題は、第2)の事実の有無ということになります。この点については、上記判決と同様に考えれば、当該処分について具体的に「審査基準」のどの規定を適用してなされたものか不明、ないしは(合理的な)説明が困難である場合に第2)の事実ありと解することになるでしょう。したがって、この場合には理由提示で①、②の他「審査基準」の「適用関係」まで示す必要があることになります。他方、当該処分について具体的に「審査基準」のどの規定を適用してなされたものか明らかな場合には、理由提示で①、②が示されていれば、「審査基準」の「適用関係」まで示さなくても、理由提示の瑕疵にはならないと考えられます。

 (注4)最判昭60122など理由提示が論点になっているほぼ全ての判例が理由提示の趣旨に触れています。

(注5)具体的には次のように判示しています。すなわち「建築士に対する上記懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては,処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて,本件処分基準の適用関係が示されなければ,処分の名宛人において,上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても,いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例であると考えられる」。

(注6)行政手続法では「処分基準」の設定・公表は努力義務にとどまっていますが(法121項)、行政庁が「処分基準」を設定・公表している場合、判例は「処分基準」に処分庁の裁量を羈束する効力を認めています(最判平27.3.3)。

 理由提示と弁明手続・聴聞手続との関係について 
 処分庁は、不利益処分をする場合には、原則として、聴聞手続や弁明手続をとる必要があり(行政手続法13条)、これらの手続において不利益処分の名あて人となるべき者に対して「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」および「不利益処分の原因となる事実」を通知しなければならないことになっています(同法15条1項1号、2号、同法301号、2号)。また、聴聞手続の場合、当事者等は聴聞調書や聴聞主宰者の報告書の閲覧を求めることもできます(同法244項)。

 不利益処分の場合には、このような事前手続があり、この手続によって処分の名あて人は処分理由を相当程度知り得る、あるいは予測できると考えられます。そのため、聴聞手続や弁明手続を経た場合は、たとえ理由提示の内容・程度に不備があったとしても処分の取消事由にはならないのではないかが問題になります。

 結論からいえば、聴聞手続や弁明手続を経た場合でも、必要な理由提示の内容・程度に変わりはない、したがって、理由提示の内容・程度として、これまで述べてきたところが妥当すると考えるべきでしょう。何故ならば、①事前手続である聴聞手続や弁明手続と処分時における理由提示は別個の手続であること、また②処分は聴聞手続や弁明手続を踏まえてなされるものであるから、事前手続で示された理由と処分時の理由は異なることがあり、したがって、事前手続と理由提示は実質的にも併存させる理由があるからです(注7)。ちなみに、判例も、控訴審を中心に、このような考え方が多数のようです(注8)。

 (注7)この点につき、東京高判平24.12.12は次のように判示しています。少し長くなりますが引用しますと「理由付記は,相手方に処分の理由を示すことにとどまらず,処分の公正さを担保することも目的とするものであるから,相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず,第三者においてもその記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならないというべきであり,是正指導や聴聞手続等での説明をもって理由付記に代えることはできない。また,処分に先行した是正指導や聴聞手続は,本件各処分とは別個のもので,それらの手続により控訴人の意見や弁明を徴し,対応を見極めた上で本件各処分がされたものであって,処分の理由がそれらの手続における説明と全く一致するとは限らないから,その関係を明らかにするためにも,是正指導や聴聞手続で説明された処分根拠事実と本件各処分の根拠事実との異同の有無を認識するに足りる程度の理由は,本件各処分の記載自体においてされる必要があるというべきである。」

(注8)上記東京高裁の判決の他、名古屋高判平25.4.26、名古屋高判平25.10.2、熊本地判平26.10.22など。反対の見解をとるものとして高松地判平12.1.11など。

 おわりに
 以上、やや論点つまみ食い的になりましたが理由提示について考えてきました。なお、この記事は、学術論文の類いではなく、あくまで個人的な研究ノートもどきの雑記・雑文です。したがって、もとより論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。そういう性質のものですので、記事に対する質問・意見・批判などには対応できませんのでご了承いただければ幸いです。

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