第4回 いわゆる「第三者委員会」について考える―附属機関条例主義との関係を中心として―
はじめに
国や自治体には要綱等に基づいて設置され、法令または条例に根拠を有しない「第三者委員会」、「私的懇談会」、「私的諮問機関」等(以下「第三者委員会等」といいます)が数多く存在しています(注1)。このうち自治体が設置する「第三者委員会等」については、地方自治法第138条の4第3項及び同法202条の3第1項(注2)が規定する(以下「法2カ条」といいます)「附属機関」に該当し違法であるとの見解があります。この見解によれば、「第三者委員会等」の多くが違法とされることになります。
しかし、後述のとおり、上述の見解のような議会による民主的統制を強調した附属機関条例設置主義の厳格な適用は、長の合理的な組織編成権限に対する不当な介入につながりかねないという問題があります。そこで本稿では、この問題について考えてみることにします。
(注1)後述のとおり「令和4年に都道府県及び政令都市の合計67の地方自治体について実施した調査によれば、約97%の地方自治体において法律又は条例に根拠を有しないと考えられる附属機関が設置されていた」ということです。なお、本稿では民間企業等の「第三者委員会」は検討の対象にはしていません。
(注2)条文は以下の通りです。地方自治法第138条の4第3項「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。ただし、政令で定める執行機関については、この限りでない。」、同法202条の3第1項「普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこれに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関とする。」。
下級審裁判例の解釈及び行政実務の解釈
平成10年頃から、「第三者委員会等」は附属機関条例主義に違反するとして、その委員への報酬や報償費の支出を違法とする住民訴訟が提起され、公刊物等で確認した限りこれまで20件余の判決が出ています(注3)。
裁判例の中には、「法2カ条」の文言に依拠して、附属機関を「執行機関の行う行政の執行のため、又は行政執行に伴い、必要な調停、審査、審議又は調査等を行うことを職務とする機関」と定義した上、「調停、審査、審議又は調査等」の文言を重視して、附属機関を広く解釈するものがあります(注4)。本稿では、これらの裁判例のように「審査」、「諮問」、「調査」といった作用の文理解釈に基づき、それを行う機関を広く「附属機関」と捉える見解を総称して「広義説」ということにします。そうすると、これらの「広義説」に立つ裁判例の「附属機関」の定義・解釈によれば―どの「第三者委員会等」でも少なくとも事案の「調査」はするでしょうから―「第三者委員会等」は、ほぼ全て「附属機関」に該当することになり、本条違反で違法であるということになるでしょう。
他方、上記裁判例とは異なり、「附属機関」の範囲を限定する裁判例もあり、これらの裁判例によれば、「附属機関」に該当しない「第三者委員会等」もあり得ることになります(注5)。
ところで、総務省(旧自治省)関係者による行政実務解釈では、「附属機関」とは「執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い必要な調停、審査、諮問又は調査を行うことを職務とする機関であり、執行権を有しないものである」(注6)と定義し、「執行機関の補助職員以外の外部のものも委員あるいは構成員として加わるとき」は、すべて条例で定めるべき附属機関になる、という解釈をしています。この解釈によれば、「広義説」と同様、「第三者委員会等」は、ほぼ全て「附属機関」に該当することになり、本条違反で違法であるということになりそうです。
しかし、行政実務解釈は、「要綱等によって、・・・外部のものも委員あるいは構成員として加わる委員会、協議会等を設置している例が少なくないが、こうしたものは『機関』とは区別して、行政運営上の意見聴取、情報や政策等に関して助言を求める場として設けられるもので、第三項〔=地方自治法第138条の4第3項〕に違反するものではないとみられる」(注7)という解釈も示しています。そうすると、行政実務解釈は、「附属機関」に該当しない「第三者委員会等」を認める立場であり、その意味で「附属機関」の範囲を限定する立場であるので、「広義説」には入らないと考えられます(以下、「附属機関」の範囲を限定する立場を総称して「限定説」ということにします)。
(注3)確認できた下級審裁判例として、名古屋地判平10.10.30、さいたま地判平14.1.30、福岡地判平14 .9 .24、松江地判平25 .8 .5、大阪地判平29 .1 .13、名古屋地判令5.3.27、名古屋高判令5.12.20など今日まで22件(請求認容8件、棄却14件)があります。
(注4)名古屋地判平10.10.30、さいたま地判平14.1.30、福岡地判平14 .9.24、岡山地判平20. 10. 30、広島高岡山支判平21. 6. 4、横浜地判平23. 3. 23、名古屋高判令5.12.20など。
(注5)松江地判平25.8.5、名古屋地判令5.3.27。
(注6)例えば、佐藤文俊・逐条地方自治法454頁。
(注7)佐藤・同書457頁。
ところで、行政法学説での「附属機関」の範囲に関する見解ですが、これには様々なものがあり、定説を見ません。
一例を挙げれば、「附属機関」を自治紛争処理委員のような独任制の機関を除き、厳格な意味での合議制機関のみを指すと解釈する見解があり、この見解によれば、単に意見を個別に聴取するヒアリングに留まる会合や、職員と外部有識者等との勉強会、あるいは「会」としての結論を出さない研究会などは、附属機関には当たらないとされます(注8)。また、二重の基準により「附属機関」を定義した上で、「附属機関」を二つの基準のいずれかを満たすものに限定する見解もあります(注9)。
上記のとおり「附属機関」の範囲について行政法学説における通説といえるものはないといえる状況です。しかし、大多数の学説は「広義説」とは異なり、程度の差はあれ「附属機関」の範囲を限定する考え方、すなわち「限定説」をとっていると考えられます(注10)。「限定説」の理由とするところは、概ね、地方自治体において長(執行機関)は住民の直接選挙によって選任されており、議会と同様民主主義的正当性を有している(二元代表制)。したがって議会による民主的統制を強調した附属機関条例設置主義の厳格な適用は、長の合理的な組織編成権限に対する不当な介入につながりかねない、というところにあります。
(注8)稲葉馨「自治組織権と附属機関条例主義」『行政法の発展と変革(下)(塩野先生古稀)』333頁以下。
(注9)碓井光明「地方公共団体の附属機関等に関する若干の考察(上・下)」自治研究82巻11号53頁以下、同12号22頁以下。
(注10)稲葉・前掲、碓井・前掲、中川丈久「地方自治法における附属機関の法定主義の意義と射程(1・2完)」自治研究94巻11号3頁以下、12号3頁以下、高橋正人「附属機関(設置)条例主義と判例・学説」静岡大学法政研究26巻2・3・4号174頁以下、榊原秀訓「附属機関条例主義と住民訴訟」南山法学47 巻1 号(2023 年)149頁以下等。なお、塩野宏『行政法Ⅲ〔第5版〕』225頁は「〔条例外審議会〕を自治法に反する違法の組織とみることはできないと考えられる」として、明確に限定説をとっています。
前述のとおり、附属機関条例主義違反を理由とする住民訴訟は多数提起され、たしかにこれまで多くの裁判例は、附属機関該当性につき前述の「広義説」をとっています。しかし、「限定説」に立つ裁判例もあり、そのうち1件は直近(名古屋地判令5.3.27)のものです。加えて、より重要な点ですが、最高裁判所の判断は未だ示されていないのです。そうすると、とうてい附属機関の解釈について確立した判例理論が形成されているということはできないと思います。
また、近年の「広義説」に立つ裁判例では、「第三者委員会等」を「附属機関」に該当するとし、その設置を違法と判断しつつも、長の過失を否定し、結局、損害賠償請求の訴え(注11)を棄却するものが多数です(注12)。そして、その過失の判断についても、「附属機関条例主義の解釈については相互に異なる理解をする判例,学説が入り乱れており…これについての最高裁判例は存在しない」、「県が令和4年に都道府県及び政令都市の合計67の地方自治体について実施した調査によれば、約97%の地方自治体において法律又は条例に根拠を有しないと考えられる附属機関が設置されていた」、「県は迅速に事態の収集に向けて対処する必要に迫られていたのであって,附属機関該当性及びその設置根拠について熟考を重ねる時間的な余裕はなかったものと認められる」ことを理由に長の過失なしとする裁判例があります(注13)。
これらの裁判例のような理由で長の過失が否定される(すなわち、長の責任が否定される)のであれば、最高裁の判断が示されない限り、ほぼ常に長の過失は否定されることになるでしょう。そうすると、この種の裁判例は要するに、「附属機関」の設置につき長は責任を問われないと言っているわけですから、「広義説」立つ裁判例も、少なくとも近時のものは、結果的には「限定説」に立つ裁判例とかわらないと考えられます。
そこで「限定説」に立つ裁判例ですが、その一つである松江地判平25.8.5は、昭和27年地方自治法改正の趣旨(濫設防止と民主的統制)を認めつつも、その制約は限定的であるべきとし、「濫設置に当たらず、かつ、議会による民主統制の必要のない機関であれば、首長の合理的な組織編成権限に委ねられている」と解釈しました。この判決は、附属機関の判断基準として、恒常的か否か(形式的要素)と、民意を反映させる実質があるか否か(実質的要素)を総合的に判断しています。そして、この判断基準により、問題となった懇話会や検討会は臨時的・一時的なもので、かつ民意を反映させる実質を有することから、長の組織編成権限に委ねられているとして、附属機関該当性を否定しています。
同じく「限定説」に立つ裁判例の一つである名古屋地判令5.3.27は、①当該機関が担当する職務内容が、地方公共団体の意思決定における情報収集の一環と位置付けられるものか、②これを超えて、地方公共団体の意思決定過程に公式に組み込まれたものか、③当該機関が構成員の意見やその単なる集積にとどまらない機関としての意思を表明するものか、という観点から「附属機関」該当性を判断するのが相当であるとしています。そして、本判決は、このような観点から、「第三者委員会等」に該当する「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会・検討委員会」を、本件各委員会は委員が交代しながら同一性を保って継続的に活動する組織ではないこと、提言が委員会として決定した一つの意見ではなく委員の意見の集積にとどまること、活動が幅広い情報・知見の収集にあり行政執行の一部を構成しないことなどから、「附属機関」には該当せず、適法と判断しています。
(注11)地方自治法242条の2第1項第4号に基づく、いわゆる4号請求。
(注12)大阪高判平25.11.7(本判決は、原告の請求を認容した奈良地判平25.6.25を取消して請求を棄却、同様に第1審の認容判決を取消して原告の請求を棄却したものとして大阪高判平26.8.28)、大阪地判平26.9.3、大阪高判平27.6.25、大阪地判平29.1.13、名古屋高判令5.12.20。
(注13)名古屋高判令5.12.20。
どう考えるべきか
以上見てきたように、「第三者委員会等」と附属機関条例主義との関係については、裁判例・学説ともに必ずしも統一した理解が確立しているとはいえません。他方で、国の行政においても外部有識者による「第三者委員会等」が広く設置されていますが、住民訴訟に相当する制度がないため、その適法性が司法の場で問題とされることはほとんど想定されていません。国と地方自治体の第三者委員会の性質に本質的な差があるとは考えにくいことを踏まえると、自治体においてのみこれを広く違法と解することには、やや違和感を覚えるところです。
附属機関条例主義の趣旨を踏まえる必要はもちろんありますが、その適用を過度に形式的に拡張することは、地方自治体の行政運営の実情とも必ずしも整合しないように思われます。少なくとも現時点では、「第三者委員会等」については、その具体的な機能や位置付けを踏まえつつ、附属機関該当性を限定的に解し、その適法性を相当広く認める方向で理解するのが実務にも適合するのではないでしょうか。
おわりに
以上、簡単ではありますが、自治体等が設置する「第三者委員会等」について附属機関条例主義との関係を中心に検討してきました。小稿が、当該問題の対応につき悩んでおられる自治体等の実務担当者の方や法曹実務家の方の何らかの参考になれば幸いです。なお、小稿は、学術論文の類いではなく、あくまで個人的な研究ノートもどきの雑記・雑文です。したがって、もとより論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。そういう性質のものですので、小稿に対する質問・意見・批判などには対応できませんのでご了承いただきますようお願いします。